コラム

カイロス打ち上げ「中止」──ロケットって何でそんなに打ち上げるの?本当に儲かるの?

カイロス打ち上げ「中止」──ロケットって何でそんなに打ち上げるの?本当に儲かるの?

2026年3月1日、和歌山県串本町のスペースポート紀伊から打ち上げ予定だったスペースワンの小型ロケット「カイロス」3号機が、天候不良により 打ち上げ中止 となりました。

(出典:Yahoo!ニュース「カイロス3号機打ち上げ中止」)

カイロスは1号機が発射直後に爆発、2号機も飛行中断と、過去2回の打ち上げがいずれも失敗。3号機は「今度こそ」と注目されていただけに、天候とはいえ中止は残念なニュースでした。

でも、ふと思いませんか?

ロケットって、そもそも何でそんなに打ち上げるんだろう?

これだけ膨大な費用と時間がかかっているのに、ちゃんとリターンが返ってくるものなのか? 気になったので、徹底的に調べてみました。

ロケット打ち上げの歴史──人類はなぜ宇宙を目指したのか

ロケットの歴史を紐解くと、そこには国家間の競争と技術革新の物語があります。

冷戦が宇宙を開いた

近代ロケットの原型は、第二次世界大戦中にナチスドイツが開発した V-2ロケット です。戦後、その技術者たちがアメリカとソ連に渡り、東西冷戦の「宇宙開発競争」が始まりました。

  • 1957年:ソ連が世界初の人工衛星 スプートニク1号 を打ち上げ
  • 1961年:ソ連の ユーリ・ガガーリン が人類初の宇宙飛行(108分間)
  • 1969年:NASAの アポロ11号 が月面着陸。ニール・アームストロングの「人類にとって大きな一歩」

(出典:Aerospace Corporation「A Brief History of Space Exploration」/ NASA)

つまりロケットは最初、「国の威信」と「軍事技術の誇示」 のために打ち上げられていました。純粋な科学探求というよりも、「うちの国の方がすごい」を見せるための手段だったわけです。

商業打ち上げの時代へ

転機は 1980年代。フランスを中心にヨーロッパが アリアンスペース を設立し、世界初の商業宇宙輸送会社が誕生しました。

そして 2002年、イーロン・マスクが SpaceX を創業。ここからロケットビジネスの常識が一変します。

2015年、SpaceXが Falcon 9ロケットの垂直着陸 に成功。使い捨てだったロケットを再使用する時代が幕を開けました。

(出典:SpaceX公式 / Wikipedia「History of spaceflight」)

日本と海外の宇宙開発──圧倒的な差

ここで、日本と世界の宇宙開発を比較してみましょう。

宇宙予算の差がヤバい

各国の宇宙関連予算(2023年)を見ると、その差は歴然です。

  • アメリカ :約732億ドル(約11兆円
  • 中国 :約141億ドル(約2.1兆円)
  • 日本 :約46億ドル(約7,000億円)
  • EU/ESA :約28億ドル(約4,200億円)

(出典:World Population Review「Countries with Space Programs 2026」)

アメリカの宇宙予算は日本の 約16倍。これだけ差があると、「そりゃ向こうの方が進んでるよね」という話です。

各国のアプローチの違い

アメリカ:NASAとSpaceX・Blue Originなど民間企業の 官民連携モデル が強い。SpaceXだけで2025年に 165回の軌道打ち上げ を実施。世界全体の半分以上を1社がやっている異常事態です。 中国:国家主導で猛追。2025年に 83回 の軌道打ち上げで国家記録を更新。独自の宇宙ステーション「天宮」を運用し、2030年までに月面有人着陸を目標にしています。 日本:JAXAのH3ロケットが2024年2月にようやく初成功。民間では スペースワン(カイロス)インターステラテクノロジズ が参入していますが、まだ軌道投入には成功していません。2030年代前半までに宇宙産業市場規模を 8兆円(2020年の2倍) にする目標を掲げています。

(出典:SpaceNews「Japan creates multibillion-dollar space strategic fund」/ Space.com「Record launches, reusable rockets - China in 2025」)

日本はNASAのArtemis計画に参加しており、日本人宇宙飛行士が国際パートナーとして 初の月面探査 に挑む予定です。これは明るいニュースですが、ロケット技術そのもので見ると、アメリカ・中国との差は開く一方というのが正直なところです。

イーロン・マスクは何をしようとしているのか

SpaceXの話は、そのままイーロン・マスクの壮大な野望の話でもあります。

再使用ロケットで価格破壊を起こした

SpaceXが革命を起こしたのは 「ロケットを再使用する」 というシンプルなアイデアです。

従来のロケットは1回飛ばしたら海に落として終わり。数百億円の機体が使い捨てでした。

Falcon 9は ブースターを垂直に着陸させて回収し、何度も再利用 します。2026年2月時点で、1基のブースターの最大飛行回数は 33回。着陸成功率は 97.8%(590回中577回成功)。

(出典:NASASpaceFlight.com / Space.com)

Starshipで火星を目指す

マスクの最終目標は 火星への植民地化 です。

そのために開発しているのが超大型ロケット Starship。2025年に5回のテスト飛行を実施し、ブースターの「タワーキャッチ」(発射台のアームで帰還するブースターを空中でキャッチする)にも成功しています。

当初は2026年に無人Starship 5機を火星に送る計画でしたが、2026年2月に 火星計画を約5〜7年延期 し、まず 月面に「Moon City」を建設する 方針に転換しました。

(出典:TIME「Elon Musk Postpones Mars Plans」/ SpaceX公式)

Starlinkで宇宙から稼ぐ

マスクが「ロケットで儲ける」ために考えた最大の武器が Starlink(スターリンク) です。

数千機の小型衛星を低軌道に配置し、地球全体に高速インターネットを提供するサービス。2026年2月時点で加入者は 1,000万人 を突破。

自社のFalcon 9で自社のStarlink衛星を打ち上げるので、打ち上げコストも抑えられる。ロケット会社とインターネット会社を一体化させた のがマスクの天才的なところです。

(出典:ElectroIQ「Starlink Statistics」)

ロケット打ち上げは本当に儲かるのか?

さて、本題です。これだけ金のかかるロケットビジネスは、実際に儲かるんでしょうか?

打ち上げコストの比較

ロケット1回の打ち上げ費用再使用
SpaceX Falcon 9約70億円あり
SpaceX Falcon Heavy約135〜225億円あり
ULA Atlas V約165〜240億円なし
ULA Delta IV Heavy約675億円なし
Ariane 6(欧州)約120〜180億円なし
NASA SLS約3,000億円以上なし
SpaceX Starship(目標)約3〜15億円あり
(出典:PatentPC「Rocket Launch Costs 2020-2030」/ NASA / TechTimes)

注目すべきは SpaceXとNASAのコスト差。NASAのSLS(スペース・ローンチ・システム)は1回の打ち上げに 約3,000億円以上 かかりますが、SpaceXのFalcon 9は 約70億円。40倍以上の差です。

さらにStarshipが完成すれば、打ち上げ費用は 3〜15億円 まで下がる見込み。これが実現すれば、宇宙がぐっと身近になります。

SpaceXの収益構造

SpaceXは 3つの柱 で稼いでいます。

1. Starlink(衛星インターネット):約118億ドル(約1.8兆円) 全社収益の約60%。月額約94ドルで1,000万人が加入。2024年に初の黒字化を達成しました。 2. 打ち上げサービス:約44億ドル(約6,600億円) 他社の衛星や宇宙ステーションへの物資輸送など。 3. 政府・軍事契約 米国の国家安全保障宇宙打ち上げで約60億ドル規模の契約を持っています。

(出典:Sacra「SpaceX revenue, valuation & funding」/ SpaceNews)

SpaceXの企業価値はトヨタの4倍

2025年12月の内部株式売却時の企業価値は 約8,000億ドル(約120兆円)

さらに2026年のIPO(新規株式公開)では 1.5兆ドル(約225兆円) の評価額を目指しているという報道もあります。

参考までに、トヨタ自動車の時価総額が約30兆円。SpaceXのIPO目標はトヨタの 約7.5倍 です。

(出典:Motley Fool「SpaceX Will IPO in 2026」/ NAI 500)

投資家にリターンは返ってくるのか?

結論から言うと、SpaceXに関しては、初期投資家に莫大なリターンが返っています

2002年の創業時にマスク自身が投じた1億ドルは、現在の企業価値ベースで 数千倍 のリターン。その後の投資ラウンドでも、初期に参加した投資家は大きな利益を得ています。

ただし注意点もあります。

  • IPO目標の 1.5兆ドル は売上高の 約60倍(PSR)。一般的なIT企業でも10〜20倍が目安なので、かなり割高
  • Starlinkの加入者増加が鈍化すれば、収益成長にブレーキがかかる
  • Starshipの開発費は巨額で、成功するまでキャッシュが流出し続ける

つまり 「宇宙ビジネスは儲かるか?」 への答えは──

SpaceXレベルで技術革新とビジネスモデルの両方を持てれば、とんでもなく儲かる。ただし、それができるのは今のところSpaceXだけ。

宇宙産業全体の市場規模

2024年の世界の宇宙経済規模は 6,130億ドル(約92兆円)。前年比7.8%成長。

そのうち商業セクターが78%、政府予算が22%。2032年には 1兆ドル(150兆円)超え が予測されています。

(出典:Space Foundation「The Space Report 2025 Q2」)

カイロスの挑戦が持つ意味

話を日本に戻しましょう。

スペースワンのカイロスロケットは、成功すれば 日本初の民間単独での衛星軌道投入 となります。

3号機には5機の衛星が搭載されています。テラスペースの「TATARA-1R」、Space Cubicsの「SC-Sat1a」、広尾学園の学生が関わった「HErO」、アークエッジ・スペースの「AETS-1」、そして台湾の「NutSat-3」。

(出典:マイナビ「日本初の民間ロケット軌道投入へ」/ sorae)

1回目は爆発、2回目は飛行中断、3回目は天候で延期。

正直に言えば、SpaceXが年間165回打ち上げている横で、日本の民間ロケットはまだ1回も成功していない。この差は大きい。

でも、SpaceXだって最初は失敗の連続でした。Falcon 1は3回連続で失敗し、4回目でようやく成功。マスク自身が「あと1回失敗したら会社が潰れていた」と語っています。

大事なのは、挑戦し続けること。

日本政府もJAXAに1兆円の10年間戦略ファンドを設立し、宇宙産業の育成に本腰を入れ始めています。カイロスの次の打ち上げは3月4日以降に再設定されました。

まとめ

ロケットを打ち上げる理由は、時代とともに変わってきました。

  • 冷戦時代:国の威信
  • 1980〜2000年代:商業衛星の打ち上げ
  • 2010年代〜:再使用ロケットとStarlinkによる宇宙インフラ事業

そして今、ロケットビジネスは 「打ち上げ屋さん」から「宇宙インフラ企業」 へと進化しています。SpaceXが示したのは、ロケットそのもので儲けるのではなく、ロケットを使って宇宙にインフラを作り、そこから継続的に収益を得る というビジネスモデルです。

カイロスの打ち上げ中止は残念でしたが、日本の宇宙産業はまだ始まったばかり。

次こそ、空に昇るカイロスを見届けたいと思います。

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#宇宙#ビジネス#テクノロジー

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