サナエトークン(SANAE TOKEN)の騒動、ニュースで見た方も多いと思います。
この記事では トークンの違法性や信用性については取り上げません。
僕が注目したいのは、この事件の根っこにある 「合意形成の甘さ」 です。
そしてこれは暗号資産の世界に限った話ではなく、 どの会社でも日常的に起こりうるミス だと思っています。
サナエトークン騒動をざっくり振り返る
2026年2月25日、Solanaブロックチェーン上で「SANAE TOKEN」が発行されました。発行元は連続起業家・溝口勇児氏が運営するWeb3コミュニティ「NoBorder DAO」。高市早苗首相の名前を冠したトークンで、「民主主義をテクノロジーでアップデートする」プロジェクトの一環とされていました。
発行直後、高市首相の公認後援会を名乗る「チームサナエ」がトークンを支持する投稿を行い、「公認プロジェクト」との誤認が拡大。トークン価格は急騰しました。
しかし 3月2日、高市首相が公式Xで「全く存じ上げません」「承認も一切与えていない」と全面否定。価格は約53〜58%急落し、金融庁も調査に乗り出す事態に。
運営側は3月4日に謝罪し、名称変更と補償を表明しました。
> 参照: [「SANAE TOKEN」金融庁が実態把握へ - 日本経済新聞](https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA03CKM0T00C26A3000000/) / [高市首相、「SANAE TOKEN」関与を全面否定 - あたらしい経済](https://www.neweconomy.jp/posts/552174) / [「サナエ・トークン」運営元が謝罪 - Yahoo!ニュース](https://news.yahoo.co.jp/articles/b082468de2b9b5d9d1fc2cc38055609e175d3639)
これは「合意形成の失敗」の典型例
この事件を要約すると、結局こういうことです。
「誰がどう言って、誰が聞いて、どのように実行したか? そしてそれの承認があったか?」運営側の溝口氏は「高市さんサイドとはコミュニケーションを取らせていただいてて」と発言していましたが、首相側は完全に否定。運営側も後に「コミュニケーションの取り方や認識の共有において十分とは言えない点があった」と認めています。
つまり 「話したつもり」と「承認を得た」は全く別物 だったのに、そこが曖昧なまま事が進んでしまった。
これはまさに合意形成の甘さが引き起こした問題です。そして どの会社でも陥りやすいミスのひとつ です。
合意形成ができないとどうなるのか?
合意形成が不十分なまま仕事を進めると、こんなことが起きます。
- 責任の所在が不明になる ── 問題が起きたとき「誰が決めたのか」が分からない
- 言った言わないの泥仕合 ── お互いの記憶が違い、信頼関係が崩壊する
- 手戻りが大量に発生する ── 「そんなつもりじゃなかった」で作業がやり直しに
- 訴訟に発展する ── 最悪の場合、数十億円規模の賠償問題になる
- 組織の信用が失墜する ── 外部からの信頼を失い、取引先が離れる
「うちは小さい会社だから大丈夫」と思うかもしれません。でも会社を太く大きくしていくために、合意形成は絶対に欠かせません。規模が小さいうちから仕組みを作っておかないと、大きくなってからでは手遅れです。
過去に起きた「合意形成の失敗」による大損害
サナエトークンだけが特殊なケースではありません。日本のビジネス史には、合意形成の甘さが招いた巨額損失の事例がいくつもあります。
スルガ銀行 vs 日本IBM ── 約42億円の賠償
スルガ銀行が勘定系システムの刷新を日本IBMに委託。しかし開発手法やスコープについて明確な合意がないまま進行し、プロジェクトは頓挫しました。
裁判では 議事録が決め手 となり、IBMの説明義務違反が認定。控訴審で約42億円の賠償命令が下されました。
> 参照: [日本IBM全面敗訴の深層「議事録」が決め手に - 日経XTECH](https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/cpbook/18/00002/00006/)
旭川医科大学 vs NTT東日本 ── 約14億円の賠償
電子カルテシステムの開発で、「仕様凍結」(これ以上変更しない)と合意したにもかかわらず、大学側からさらに171件の追加要望が出されました。
大学側は「納期遅延」を理由に契約を解除しましたが、裁判所は遅延の原因が大学側にあると認定。大学に約14億円の賠償を命じました。
> 参照: [なぜNTT東日本は旭川医科大学に逆転勝訴できたのか - STORIA法律事務所](https://storialaw.jp/blog/4019)
特許庁 基幹システム刷新 ── 約55億円が無駄に
特許庁が8年かけて進めたシステム刷新プロジェクト。発注者・ベンダー・コンサルの三者間で「何を作るのか」の合意が最後まで形成されず、2012年にプロジェクト中止。約55億円が投じられましたが、新システムは1行もコードが使えない状態でした。
> 参照: [55億円と8年の月日がパー - 日経XTECH](https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01652/051700002/)
みずほ銀行 ── 20年以上続くシステム障害
2002年の3行合併時、どのシステムに統一するかの合意ができず、3つのシステムをリレー接続する妥協策を採用。これが2002年・2011年・2021年と繰り返される大規模障害の根本原因に。2021年だけで11回の障害が発生し、金融庁から業務改善命令を受けました。
> 参照: [みずほ銀行はなぜ、何度もシステム障害を起こしたのか - J-CAST](https://www.j-cast.com/kaisha/2022/07/10441204.html?p=all)
京都市 基幹システム刷新 ── 最大約99.9億円の損失
京都市のシステム刷新プロジェクトでは、遅延の原因について発注者とベンダーの見解が真っ向から対立。「誰の責任で遅れたのか」の合意が取れず、契約解除・訴訟に発展。2度のベンダー変更でも解決できず、損失は最大99.9億円に。
> 参照: [基幹刷新失敗を巡る京都市とシステムズの争い - 日経XTECH](https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00139/052800103/)
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どの事例にも共通するのは、 「合意したつもり」と「実際に合意した」のギャップ です。そしてそのギャップを埋めるはずの記録(議事録・契約書・仕様書)が不十分だったことが、損害を拡大させています。
防ぐにはどうすればいいか?
1. 会議のログを必ず取る
僕は毎回の会議で Google MeetのAIメモ機能 を使って議事録を取るようにしています。
言った言わないが起こる前に防ぐことが重要です。中には意図的に「そんなこと聞いてない」と言う人もいる。だからこそ、議事録でなくとも ログを必ず残す 。メール、チャット、録画、なんでもいい。とにかく記録を残すことが第一歩です。
実際、スルガ銀行 vs IBM の裁判では 議事録が判決の決め手 になりました。記録があるかないかで、数十億円の結果が変わるんです。
2. 「承認」を明確にする
「話を聞いた」と「承認した」は全く違います。サナエトークンの件がまさにそうでした。
重要な決定事項は、必ず 書面またはチャットで「承認しました」の一言をもらう 。口頭だけで終わらせない。これだけで「言った言わない」の大半は防げます。
3. 決定事項を要約して共有する
会議が終わったら、決定事項を箇条書きにまとめて参加者全員に共有する。「こういう内容で合意しましたよね?」と確認を取る。
これだけで認識のズレは大幅に減ります。
4. 変更があれば再合意を取る
一度合意した内容を変更するなら、必ず再度合意を取り直す。旭川医科大学の事例のように、「仕様凍結」の後に追加要望を出し続けるのは、合意を一方的に破棄しているのと同じです。
5. 環境整備に日々気をつける
ただし、ここで大事なことをひとつ。
「言った言わない論争」に持ち込むと双方しんどい。相手を言い負かすことにフォーカスしても、仕事としてマイナスの影響しか及ぼしません。だから そうならないような環境整備を日々しておく ことが必要です。
議事録を取るのも、承認をもらうのも、相手を追い詰めるためじゃない。 お互いが安心して仕事を進めるための仕組み です。「証拠を残してやろう」じゃなくて、「お互い誤解なくやっていこう」というスタンスで環境を整えていく。その積み重ねが、結果的に会社を守ることにつながります。
まとめ
サナエトークンの騒動は、暗号資産の世界の出来事に見えて、実は ビジネスの基本中の基本である「合意形成」の問題 です。
- 誰が何を言ったのか
- 誰がそれを承認したのか
- その記録はあるのか
これが曖昧になった瞬間、数千万円から数十億円の損害が発生しうる。それは大企業だけの話ではありません。
会議のログを取る。承認を書面で残す。決定事項を共有する。
地味な作業ですが、これが会社を守る最強の武器です。
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